もう来ないかと思った
というより
もし来たとしても、
相当精神イっちゃっている人と
思わざるを得ない。
だって
はじめてのご来店なのに
一年間を通して
予約とキャンセルを30回繰り返した人
なのだから。
絶対に普通じゃない
今日も予約が入り
当たり前のように
キャンセルのお知らせ。
もういい加減
来る気ないっしょ。
今回で
キャンセル回数30回目
予約回数31回目
31回目のキャンセルのお知らせは
当日なんだろうか…
定刻の14:00
予約のキャンセルの連絡は無い。
今度は
ドタキャンかな?
さぁ
空いた2時間どう使おうかな。
時間の活用方法を考えていたその時
おもむろに入り口のドアが開いた。
「予約したMです。」
き、来た!
来てしまった。
マジ本気で
来てしまった!!!
これは現実なのか?
夢であってほしい。
しかし
ゲストを上から見ても
下から見ても
斜めからも後ろからも
どう見ても、目の前に存在する。
どうもこれは現実らしいので
腹をくくって
ゲストを注意深く観察しかない。
見た目はいたって普通。
ピストルは持っていなそうだ。
おそらく
内部がイカレテイルニチガイナイ。
油断禁物。
決して油断するな。
見た目に騙されるな。
何しろ相手は
この一年予約とキャンセルを30回も
繰り返したツワモノか変人。
そんなのとマンツーマンになるんだから
たまったものではない。
いくら自分が変人だって言われても
ここまで変人じゃない。
もし自分がネジ5本外れていたとしても
相手のネジは100本は軽く
外れているハズだ。
ここからカットで
2時間一緒にいなければならない。
匍匐前進
相手を刺激してはいけない。
何をしでかすかわからない。
できるだけ不穏な空気は感じさせずに
会話だ会話!!
会話で盛り上げろ!!
会話で乗り切れ!!
たわいもない
聞きたくもない
無難な内容の話を選択し
平和に時間が流れていく。
この調子で乗り切ろう。
少しの沈黙の後
おもむろにMさんが口を開いた。
「予約とキャンセルを繰り返して
ごめんなさい。
でも、嫌われてても構わないから
どうしても貴方に切って欲しかった。」
『!!』
なんて…
なんて
俺は
小さい男なんだ…
もう…
僕の事は
小人と呼んで下さい。